城の稜堡(Basiton)とはなにか

デミッツ要塞(Festung Dömitz)の稜堡

もしかしたら、「堡塁」という名称のほうが一般的かもしれません。しかし、城塞学的には「稜堡」なので、ここでは稜堡と表現します。

15世紀も半ばになると火器が発達し、中世の高い塔ではもはや防御の役割を果たさなくなった時代、塔の代わりに稜堡という防御システムが発達しました。

どうして高い塔ではだめなの?

中世の高い城壁では大砲の前でじゃ無力なんだよ。高い塔や城壁は、大砲も的を大きくしているに過ぎないからね。

目次

稜堡の発達の歴史

稜堡は、フランス国王シャルル8世がイタリアに侵攻したイタリア戦争がきっかけで、イタリアから始まりました。

それまでのイタリアは、城塞都市は発達していたものの、アルプス以北のような防御に特化した城砦はありませんでした。いわば城塞後進国です。

フランス軍の大砲にイタリアの都市国家は、為す術もなく陥落していきます。

応急砲要塞

フランス軍の大砲に、イタリアの城塞都市の城壁は簡単に崩壊してしまいます。

攻めるフランス軍に対し、守るイタリア軍も必死です。

敵軍の突破口になりそうな場所の内側に堀を掘り、その後方にはその場しのぎで崩れた石を使って土塁を形成する二重塁壁にしたところ、それらが砲弾の衝撃を吸収し、効果的であることがわかりました。

塔の上に大砲を置くことは困難でしたが、土塁の上に大砲を置くことは容易です。

ゆえに中世の城壁に比べて壁は低くなり、大砲を置けるように厚く、広くなりました。

土塁がより頑丈な石造りへとやがて変わっていったのは、言うまでもありません。

稜堡式城郭(星形要塞)の登場

1470年のモンサンミッシェルの北塔の三角壁、ルケラ城のV型塔がその先駆けと考えられています。

円形稜堡では死角を生じるため、円形ではなく矢じり型、角型へと変化していきました。円形よりも角型のほうが大砲も多く置ける利点があります

1556年、稜堡に兵士が配備できるような集屯所が設けられるようになりました。

稜堡の凸角部と凹角部の集屯所に兵士を配置し、反撃できるようにしました。

ドイツ築城学派

イタリアの稜堡式城郭が他のヨーロッパ諸国も追随します。

その中で、ドイツは矢じり型稜堡を備えた多角形の要塞が発展しました。

矢じり型稜堡を組み合わせることにより、稜堡間の距離が短縮され、相互に射撃擁護しやすくしました。

稜堡を拡大し、封を設置して、胸壁を超えて射撃しやすくなり、攻撃力が増します。

オランダ築城学派

オランダは平坦な土地であるため、地形を利用することができず、それを埋めるものとして稜堡式城郭が広まっていきました。

築城に適した石材にも乏しいため、そこは土木技術で補います。

ラヴェラン、半月堡、王冠堡、角堡などを設けて補強し、幅15~40m水濠を設けて守りを強化しました。

オランダ独立戦争(1566~1648年)で、今度はオランダの技術がヨーロッパ各地に広まります。

フランス築城学派

フランスでは、三十年戦争、フロンドの乱、スペイン継承戦争と度重なる戦争がありました。

フランス築城学派は、各国で発達した稜堡式城郭をいいとこ取りして数学的科学的に理論をまとめ上げ、集大成としました。

稜堡の各部の名称

A:稜堡
B:角堡
C:中堤
D:ラヴェラン
E:半月堡
F:王冠堡
G:凹堡
H:堡障

中世の城から稜堡式城郭への過渡期

マリエンベルク要塞(Festung Marienberg)の稜堡 @Photo by ぺんた

上の写真はヴュルツブルクにあるマリエンベルク要塞なんだけど、要塞の周囲に、矢じり型稜堡があるのがわかる?

マリエンベルク要塞は、中世時代に先史時代のケルト人の砦跡に城砦が建てられ、さらに近世になって稜堡が追加された要塞です。

ドイツにはこのように、稜堡のある中世や近世の城を多く見かけます

もちろん、稜堡は本体の城よりも、火器が発達した後の時代になって造られたものです。

まとめ

  • 稜堡は、中世の高い塔や城壁が火器の前には無力であったことから発達した防衛システム
  • 急場しのぎで造った土塁が効果的であることが分かり、後に石造りとなった
  • ヨーロッパ各地に広まり、それぞれ独自の発展をした
  • 中世から近世への過渡期に、中世城郭に稜堡が設けられている例が多く見られる

火器の発達が城の形をも変えたのか…。

稜堡の他にも、城を構成する要素はいろいろあるよ!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

CAPTCHA


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

目次