城(ブルク)の中での生活は,中世騎士物語でみられるようなロマンチックさはありませんでした。
快適さとは程遠い生活空間
敵の攻撃から守るために建てられた城は,厚さ数メートルの石壁で守られています。
それゆえ,生活空間としては快適なものでは決してありませんでした。
乏しい光
城は防衛施設であるということを考えると,開口部は小さい方が良いのです。
開口部があったとしても,城の壁の厚さは数メートルはある(ただし上層部になるにつれ薄くなる)ので,太陽の光はなかなか差し込みません。そして鎧戸で常に閉まっているのが普通でした。
窓ガラスがあったとしても,それは大変貴重なものであり,普段は安全な場所に保管されていました。城主や客人がいるときだけ取り出して,はめられていました。
火の光
冬は暖炉が周りを灯していました。
壁には,長めの松明が取り付けられ,周囲を照らしていました。特別な日には,ピッチや樹脂を染み込ませたボロ布を木の棒に巻き付けた松明を使用していました。
しかし松明は床に敷かれた木や藁に燃え移りやすく,極力使わないようにしていました。
最も安全な火の光はろうそくです。動物から抽出した脂肪を土の器に入れて燃やしていましたが,煙と悪臭がひどいという欠点がありました。
汚れた床
床には藁を敷いていました。
藁敷の床の上は,ネズミがよくチョロチョロしていたことを考えると,ペストが流行るのも分かる気がします。
藁の中はすぐにたくさんのゴミが溜まってしまうので,数日に一度のペースで取り替えられていました。
お風呂は贅沢
水は貴重です。
ほとんどの人は仕事終わりに上半身の汗を拭い,手を洗う程度のものでした。
入浴はひじょうにに高価な楽しみでした。
大きな木の桶を作り,沸かしたお湯を桶に注ぎ,芳香剤や花で香り付けをしていました。
髪の手入れ
現代とは違い,髪を洗う習慣がなかったため,シラミに悩まされていました。
貴族男性はセミロングのおかっぱ頭,貴族女性は長い髪が誇りでしたが,シラミの巣窟となっていました。
男女問わず,一日に数回,目の細かい櫛で髪をとき,髪の毛についたシラミやその卵を駆除していました。
同様に,ノミにも悩まされ,常に痒みと闘っていました。
寒さ対策
ヨーロッパの冬は寒いです。
木の板
城主家族が生活する一部の部屋にのみ,壁や床に温かみのある木の板が打ち付けられました。
タペストリー
裕福な城では,断熱材として壁にタペストリーが掛けられました。
タペストリーは豪華な壁の装飾で,富の証と考えられていました。
数少ない暖炉
暖炉は部屋をわずかに暖めるだけで,雨や嵐の日には風が吹き込んでいました。
現代の常識から考えると,当時の暖炉はひじょうに熱効率の悪いものです。
暖炉の前は確かに暖かかったかもしれません。しかし空気の流れから,部屋の扉近くの使用人たちの足元には冷たい風が吹き,寒さに震えながら耐え忍んでいました。
暖炉の前は,城主家族のみの特権でした。
トイレ

各階に出窓があり,そこにトイレがありました。
座面に丸い穴が空いた石板が置いてあるトイレです。
中には写真のように座面が木で作られた快適なトイレもありました。
中には洗面台が用意されているトイレもありました。
お尻は,海綿や藁で拭いていました。
排出物は城の堀に落ちたり,特別に作られた肥溜めに落ちるようになっていました。
肥溜め清掃人がおり,定期的にトイレの穴や堀や肥溜めを掃除していました。
ベッド
ベッドは高価な家具です。
羽毛や獣毛が入ったマットレスを使用しており,時には葉っぱの入った袋の時もありました。その上に木綿のシーツを敷いていました。
全裸で寝る習慣であったため,シーツは頻繁に取り替えられていました。
天蓋付きのベッド
王様やお姫様が,天蓋カーテンの向こうのベッドで寝ているシーンがよくあります。
あの天蓋カーテンは,寒さ対策のために付いているものです。レースのような軽い布ではなく,隙間風に対してびくともしない重い布が用いられていました。
城の中は至るところから隙間風が吹き込んでいたために寒く,天蓋カーテンで風の侵入を防ぐことによって暖かく眠る事ができました。
ベッドは城主とその子どもたちだけの特権です。
コメント